永田 瞬

「味の素「残業ゼロ」改革  石塚由紀夫(著)日本経済新聞出版社

2015年以降の味の素における労働時間削減、在宅ワーク、どこでもオフィス推進、限られた時間でのイノベーティブな仕事への集中などの実践が、時間経過とともに紹介されている。
 社長インタビューなども含めて社内の情報が事細かに記されており、企業の事例研究として大変参考になる。フリーアドレス化、在宅ワークなど、コロナ時代の働き方改革を先行して実践している内容も含まれており、考えることが多い。

 「イクメンじゃない「父親の子育て」  巽真理子(著)晃洋書房

人々はみな、職場、家庭、地域の中でそれぞれの固有の役割があり、境界線を行き来している。職場での承認、家庭での承認、地域での承認が何らかの形で得られれば、実体としての「ケアとしての子育て」に従事できる可能性が高い。これが本書のおおよその主張である。
 どのように子育てにかかわるのか、という点は、当事者として実践的な問題であると同時に、研究者として見た場合、このような問題をどのような切り口で攻めるのかの問題でもある。当該分野の先行研究に必ずしも明るくないが、読み物として面白く、かつ学術的な刺激も受けた。

 「呪いの言葉の解きかた  上西充子(著)晶文社

ご自身の原発反対運動へのかかわりから、ここ最近の裁量労働制をめぐるデータ偽装の話まで書かれている。何かを封じ込めようとする動きに対して、勇気付ける言葉も紹介している。ジェンダーの問題も「逃げ恥」などリンクされていて、読みやすく、とても面白い。
 筆者は、もともとJILPTの研究員から大学教員へと転じられた方。基本的に、手堅い調査を行う労働研究者のイメージがあった。その方が、どうしてここまで政策的な問題にコミットするようになったのか。結果として、という側面はあるが、そこには研究者としてのプライドもあるように思えた。
 研究者としてのたちまわりを考えさせられる、とてもよい本だと思った。