矢野 修一

 危機の二十年―理想と現実  E.H.カー(著)原彬久(訳)岩波文庫
 1939年に原著初版が出た本書は、大戦間期の国際政治をリアリストとユートピアンの相克という視点から論じたものだが、カーの鋭い視点は現代の国際政治経済分析にも十分生かせると思う。「あらゆる健全な思考は、ユートピアとリアリティの間に、そして自由意志と決定論の間にそれぞれバランスをとらなければならない。」との叙述は、私にとって学問上の「導きの糸」である
 二〇世紀の歴史 木畑洋一(著)岩波新書
 こよみ上の時間の区切りから離れて、「二〇世紀」を1870年代から1990年代初頭に至る「長い二〇世紀」として捉え、資本主義における「支配-被支配」関係を歴史的かつ世界的視野で論じた書。帝国主義の発展・再編・解体のプロセスを独自の視点でコンパクトにまとめるとともに、現在のグローバリゼーションと国民国家の関係をも射程に収める。アイルランド、南アフリカ、沖縄の定点観測が効いている
 ファシスト的公共性―総力戦体制のメディア学 佐藤卓己(著)岩波書店
 ファシズムを「大衆が自らの客観的利害に反してさえも資本主義を維持する人的基盤に統合されるシステム」と定義する著者は、民主主義を楯にしていればファシズムを防げると考えるのは大いなる幻想だと主張する。ヒトラーは大衆に「黙れ」と言って押さえつけたのではなく、「叫べ」と言って「参加」と「共感」を促した。「ポスト真実」や「フェイクニュース」はトランプ大統領とともにやってきた目新しい現象ではなく、常に民主主義とともにあった。「騙された」と思って序章と第一章だけでも読んでみよう。けっして「騙された」とは思わないはずだ