矢野修一

 知識人とは何か」エドワード・W. サイード(著)平凡社
 でたらめな政治・経済運営が蔓延し、格差や貧困が拡大しても、権力の提灯持ちに明け暮れるエセ知識人、専門家、コンサルタントが日本には多すぎる。名著『オリエンタリズム』で欧米中心の知的ヘゲモニーを批判したサイードは、BBCの連続講演をまとめた本書において、「知識人とは亡命者にして周辺的存在であり、またアマチュアであり、さらには権力に対して真実を語ろうとする言葉の使い手である」と述べた。こんな時代だからこそ、権力による情報操作や誘惑、抑圧に負けることなく、「学問」や「知識人」の役割をあらためて考えてもらいたい。大学生は「学士」として世に出るのだ。
 君たちの生きる社会 伊東光晴(著)ちくま文庫
  2017年は、80年前に出た吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』が大ブームとなったが、本書はおそらくこの本を意識しながら書かれたものである。

 原著は「ちくま少年図書館」シリーズの1冊として40年前に出版されているが、その内容はいささかも色あせていない。経済学や歴史に関する旺盛な知識、地に足の着いた鑑識眼をもとに書かれた本書は、エネルギー、知的財産権、経済格差、過疎問題、医療など、現在の世界、日本を考えるうえでも必須の論点を提示している。

経済学部新入生が読むべき本は、ミクロ/マクロ経済学の教科書ではなく、まずこれだ。

 希望のつくり方 玄田有史(著)岩波新書
 「希望」は人間の存在論的必要条件だ。人は希望なしには生きていけない。人間を対象とする人文・社会諸科学で希望に言及しない学問分野はありえない。
 
希望の実現は個人の置かれた社会環境で左右される。その意味で希望とは社会的なものである。希望について、多様な分野の研究者と学際的研究を続けてきた著者は、この「社会的希望」を「他の誰かと行動することによって何かを実現しようとする願い」と定義づけた。いかなる社会的条件があれば、人はまだ見ぬ「未来」に関与し「今」を生きられるのか。希望という「未来の」表象を「現在の」社会構造の実在的要素として位置づけることによって、今ある社会の可能性をとらえることができる。社会科学の重要な入門書。ぜひ一読を。