加藤健太2017

 「ゼロからの経営戦略」沼上幹(著)ミネルヴァ書房
経済理論ほどではないにしても、経営理論は必ずしも取っつきやすい領域ではない。理論は、普遍化ないし一般化するために抽象度を高めるからである。本書は、具体的な企業の経営行動を考察するうえで、経営戦略論が有用なツールであることを教えてくれる。直観的に比重は理論1対事例9といった感じ。しかも、事例として、すかいらーくやTOTOをはじめ、日高屋を展開するハイデイ日高、earth music & ecologyを手掛けるストライプインターナショナルなど、身近な企業を取り上げており、とても取っつきやすい。戦略論だけでなく、企業に興味のある学生にはぜひ手にとってもらいたい。
 「楽しく学べる「知財」入門」 (著)講談社現代新書 
知的財産権(知財)という言葉をちょくちょく耳にするようになった。それは、アニメを筆頭に日本のコンテンツが世界から注目されていることも関係しているだろう。本書は、知財を構成する著作権、商標権、特許権・実用新案権・意匠権の内容を身近な事例に即して、とってもわかりやすく紹介している。たとえば、商標権については、「どこでもドア」「KUMA」「iPhone」「福澤諭吉」など多様な事例を取り上げているのだが、どれもがオモシロい。このうち、ドラえもんのひみつ道具「どこでもドア」は商標登録できるのか。「福澤諭吉」のような人名は登録できるのか。「坂本龍馬」は登録できるのか。登録のOKとNGを分けるのは何か。疑問は尽きない。ぜひ知りたい。タイトルに偽りなし。『楽しく学べる「知財」入門』である。
 「スゴい営業 そこまでやるか 日経産業新聞編(著)日経ビジネス人文庫
 学生が従事したい仕事として人気の高い商品開発は、メディアに取り上げられて、開発プロセスにおける苦労や工夫などエピソードが紹介されることも多い。ぼくも講義でよく話す。ヒット商品であればなおさらである。翻って、営業は学生の人気もあまりなく、実際にどのようなことをやっているのかという点もよくわからない。
 本書は、住宅(大和ハウス工業)やクレーン(三井造船)、スマホ用接着剤(DIC)、洗車機(ダイフクプラスモア)、納豆(ミツカン)、炊飯器(パナソニック)、そしてウェディングドレス(ノバレーゼ)などとても幅広い財とサービスを取り揃え、営業担当のビジネスパーソンがどのような苦労と工夫をしながらトップクラスの成績をあげているのかを紹介している。
 そこからは、営業という仕事のオモシロさだけでなく、コミュニケーション能力や情報収集力、周りを巻き込む力など大学時代に身につけるべき能力を知ることもできる。その意味でとても有用な本である。