高松正毅

 「「学力」の経済学」 中室 牧子(著)ディスカヴァー・トゥエンティワン
  この書は、経済学的なデータに基づき教育を分析考察したものである。社会実験によりデータを収集することにより因果関係を明らかにし、確固たるエビデンスを見出すことが政策決定にいかに大切かがよく分かる。また、日本の教育政策決定が、場当たり的なその場での思いつきに終始し、ことごとくその根拠(データ)を欠いていることも理解される。 教育経済学の知見は実生活にも役立つ。たとえば、「子どもを勉強させるのにご褒美でつって良い」「子どもを褒めて育ててはいけない」ことなどが、経済学的に立証されるからである。
 「セックスと恋愛の経済学:超名門ブリティッシュ・コロンビア大学講師の人気授業」
 マリナ アドシェイド (著) 酒井 泰介(訳)東洋経済新報社
 本書は、セックスと恋愛、夫婦関係に関わる市場をモデル化し、経済学の理論やデータを用いて研究しようとした成果である。 避妊具の普及は若年層の性体験や妊娠をむしろ増やす、妻のほうが家事全般が得意な場合でも夫も分担したほうが家庭全体としての生産性は向上する(家事分担における比較優位)といったことが語られる。ただし、データはすべて米国のものであり、あくまで人々が実際にどう行動したかの平均値にすぎない。したがって、我々日本人がいかに行動すべきかの指針は得られないが、こんな経済学研究もあるということで勧めたい。
 「英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる」 施 光恒(著)集英社(新書)
 元マイクロソフト社社長の成毛眞は『日本人の9割に英語はいらない 英語業界のカモになるな!』(祥伝社)と主張した。言語社会学者の寺沢拓敬は、日本人で英語を必要とする人は1割にも満たないことを立証した(「日本は英語化している」は本当か?――日本人の1割も英語を必要としていない)。2015年に刊行されたものには、永井忠孝『英語の害毒』(新潮新書)などもある。このコーナーでは「新自由主義」に言及している本書を薦めよう。英語ができると見える世界が一変するのは事実である。しかし、使う必要がないのに英語学習に血道をあげるのは、金をドブに捨てるようなものである。
 「人生を変える読書 無期懲役囚の心を揺さぶった42冊」 美達 大和(著)廣済堂出版
 広島大学101冊の本委員会の『大学新入生に薦める101冊の本』(岩波書店)をはじめ、若者向けの読書案内は多数ある。それらの本と本書が明確に一線を画すのは、一人の人間が書いている点である。著者は獄中にあり本を置けないことから、読み方の姿勢が尋常ではない。ほとんど全文を暗唱してしまいかねない勢いである。そのようにして読破した8万冊のなかからの選りすぐりの42冊である。本気で人生を変えたいのであれば、この書は良き羅針盤となるであろう。2015年高松のベスト本である。とにかく読め、そして変われ。
 「本物の英語力」 鳥飼 玖美子(著)講談社
 コミュニケーションは、聞く・話す・読む・書くの四技能だと思っているかもしれない。しかし、CEFR(欧州言語共通参照枠)では“interaction”を加えて五技能としている。すなわち、コミュニケーションとは、自分が言葉を発したら相手から決まり切った言葉が返ってくるというような一方的かつ単純なものではなく、あるコンテクストのもとに相互に行われる人間関係構築のやりとりである。英語力が伸びないのは、言語もコミュニケーションも単なる道具であり手段であると甘く見ているからである。本書を契機に「本物の英語力」とは何かを深く考えてもらいたい。
 「科学の発見」 Steven Weinberg (原著), 赤根 洋子 (翻訳), 大栗 博司(解説)文芸春秋
 本書は、ノーベル物理学賞受賞者である著者が、テキサス大学の教養課程の学部生向けに行った講義をもとに著した科学史である。美しくあることを優先した古代ギリシャの哲学がいかに科学ではないか、アリストテレスやプラトンがいかに誤っていたか等々を、現代の科学者の立場から断罪し、「観察」「実験」「実証」にもとづいた「科学」が成立するまでを語る。巻末にはテクニカルノートが付され、理解を助ける。現在の到達水準で過去を裁くことはいわば禁じ手だが、強烈な知的興奮を覚えながら科学的方法論を知ることができる。
 「人工知能の核心(NHK出版新書511)」 羽生 善治 (著), NHKスペシャル取材班 (著, 編集)NHK出版
 時の人となった将棋の藤井聡太四段だが、彼こそはAIの申し子である。今や多数出版されている人工知能(AI)に関する書籍のうち、まずは入門として羽生善治九段のこの書を勧めたい。
 「「原因と結果」の経済学---データから真実を見抜く思考法」 中室牧子 (著), 津川友介  (著)ダイヤモンド社
 二者の関係には相関関係と因果関係がありうる。たとえば、「高偏差値の大学」の学歴と「高収入」には正の相関が見られるが、因果関係にはない。つまり、「高偏差値の大学」を卒業したから「高収入」なのではない。「高収入」を得られるような人の多くは、「偏差値の高い大学」を卒業しているというだけである。この書を読み、エビデンス・ベーストで考えられる力を身につけよう。