矢野 修一

「日本地域電化史論―住民が電気を灯した歴史に学ぶ」  西野寿章(著)日本経済評論社

本書は、戦前・戦後日本の農山村に展開した地域電化の歴史を掘り起こし、その成立条件を明らかにしている。中央集権的な電力ガバナンスの弊害、原子力による大規模発電・遠距離送電の問題を克服するためのモデルは、欧米に目を向けなくても、この日本にある。
 著者は、光があたらないまま散らばっていた各地域電化の膨大な資料を収集し、丹念に読み解いたうえ、苦闘の歴史を分析している。長く読み継がれる名著となるだろう。

「貨幣の制御―流動性の理論・思想史」  高英求(著)文眞堂

本書は、ジョン・ロー、バーリ、ケインズ、ヌルクセなど、主流派経済学では、今や見向きもされない論者の流動性論を、「資産の行き過ぎた流動化」「流動性の権力依存性」「世界経済論としての流動性論」という統一的観点から分析・再評価し、社会を安定に導く知恵を見出そうとしている。「社会全体にとっては投資の流動性なるものは存在しない」というケインズの警句はいまだに重い。物々交換ベースの主流派貨幣論では、格差拡大や周期的金融危機の原因、世界経済の非対称的権力構造は明らかにならない。

「新しい市場のつくりかた―明日のための「余談の多い」経営学」  三宅秀道(著)東洋経済新報社

「新しい市場」の開発とは、「新しい文化」の開発である。それがなければ、新しいモノやサービスも必要とされず、新市場は創造されない。そして「新しい問題設定」がなければ、新しい文化は開発されない。新市場開発とは、新たに問題を設定することだ。まだ世にないモノ・サービスを生み出すには、技術開発よりも「どのように社会が変われば、より良いのか」という「ビジョン」のほうが重要となる。新市場の開発に向け、手持ちの技術、経営資源を活用できる余地は十分にある。
 読みやすい軽めの日本語で書かれているが、具体例が豊富で、内容は深い。商品開発・マーケティングにとどまらず、社会科学の入門書として推したい。