藤本 哲

「行為する組織:組織論と管理論の社会科学的基盤【新訳】オーガニゼーションインアクション」
  J.D.トンプソン(著),大月博司、廣田俊郎(訳)同文舘出版

株式会社パプアニューギニア海産という企業が,2010年代後半以降ときどきインターネットで話題にあがる。2019年には日経新聞にもとりあげられた。経営者による本も出た(『生きる職場:小さなエビ工場の人を縛らない働き方』2017)。従業員の出勤がフリースケジュールである,欠勤の際には連絡しない,1日何時間勤務(短い方)でも良い,やりたくない作業はやらなくてよい,などの項目が取り上げられた。こんなことが可能なのはなぜか,疑問に思う人も多いと思う。でも経営学では随分前からその基本原理は分かっていた。それを指摘したのがこの本である。実際にはこの本の一部なのであるが,経営学の基本理論として継続的に学ばれ続けている。

「日本人の勝算:人口減少×高齢化×資本主義」  デービッド・アトキンソン(著)東洋経済新報社

中小企業の数,比率が多すぎることが,多くの問題をもたらしているという。毎度のことながら,この人の主張には首肯せざるを得ない。かつて書かれた都市銀行の数が多すぎるというレポートも,大批判を受けたが,結局その通りになった,つまりその通りにするしかなかった。もっと早く実現できていれば,とも思うが,内部には同様の問題意識をもっと早くから持っていた人がいたはずで,それが生かせない日本社会の病理に暗澹とした気分になる。何度敗戦すれば変われるのか。さて,経営組織論としては,組織規模,主に人数や資本金額で測定される,は経営組織論の最初期から取り上げられている変数である。そして中小企業の合併が進まないことも古くから指摘されている。なぜなんだろう,そしてどうすればいいんだろう。

「みんなで戦争:銃後美談と動員のフォークロア」  重信 幸彦(著)青弓社

「空気」が幅を利かせる日本社会。空気を読むことを処世術として使っているうちはいいが,強要される状態はいかがなものか。いや,「空気を読む」とは,そもそも強要されるものなのだ。空気を読むことは,「みんな」を幸せにするのだろうか。後から振り返れば,本当に読むべきだったのは,一段上,数段上の脈絡だったと,いくらでも批判できる。でも仕方なかったのだと片付ける。渦中にいる人ができることはないのだろうか。人類は歴史から学ぶことができるはずだけど,歴史に繰り返し翻弄され続ける。まずはTED動画「How to start a movement」を見よう。またアッシュの同調実験(検索して)からも学ぼう。