谷川 卓

 子どもの難問−−−哲学者の先生、教えてください  野矢茂樹(編)中央公論新社
 「哲学」と聞いたとき、みなさんはどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。ひどく抽象的なことを考える難しい学問だというのがひとつありそうなものですが、そのように思っているひとに紹介したいのがこの本です。哲学はたしかに抽象的なことを考える難しい学問ですが、しかしその出発点はじつに身近にあるということを、教えてくれるでしょう。
 本書は、ひとつの問いに対して、二人の哲学の先生が答えるという形をとっています。取り上げられている問いをいくつか挙げておきましょう。「悪いことってなに?」「科学でなんでもわかっちゃうの?」「きれいなものはどうしてきれいなの?」「心ってどこにあるの?」こうした問いについて考えていくことが、哲学の営みになります。それぞれの問いに対する哲学の先生の答えを踏まえて、その問いについて考えてみることから、みなさんの哲学的な思索が始まっていくかもしれません。
 新哲学対話−−−ソクラテスならどう考える? 飯田隆(著)筑摩書房
 哲学の著作のなかには、対話篇と呼ばれるスタイルで書かれたものがあります。何人かのひとによる議論の様子を書き起こしたような仕方で書かれていて、哲学の議論がどんなふうになされるのかを反映させたものになっています。さまざまな哲学者が対話篇を書いているのですが、おそらく最も有名なのは古代ギリシアの哲学者プラトンによるものでしょう。そしてここに紹介した本には、現代の日本の哲学者がプラトンの対話篇に似せた仕方で書いた4つの対話篇が収められています。議論の対象となっているのは、たとえば「よいワインとは何か」といった問いです(あなたがおいしいと思えば、それはよいワインなのか。あるいは、あなたがどう感じるかとは別に、よいワインであるための客観的な条件があるのか、などなど)。この本を読むことで、哲学の議論がどんなふうになされるのかを覗いてみることができるでしょう。
 幸福とは何か---思考実験で学ぶ倫理学入門 森村進(著)ちくまプリマー新書 
 タイトルにあるとおり、この本は「幸福とは何か」という問いを哲学・倫理学の観点からアプローチしたものです。まず注意してほしいのですが、この本には具体的に何をすることが幸福なのかが書かれているわけではありません。たとえばみなさんのなかには、幸福というのはおいしいものを食べることだとか、希望の職業につくことだというふうに考えるひとがいるでしょう。ですが本書で検討されているのは、そのような幸福の中身ではありません。本書では、言ってみれば、あなたが幸福であるならばそのとき満たしているはずの条件が追求されています。たぶん私たちはみな幸福な人生を送りたいと思っています。ですが、「幸福である」とはそもそもどういうことなのでしょうか。「幸福とは何か」という問いを、一段深めた仕方で考えるための材料を提供してくれる(と同時に、哲学・倫理学の議論の進め方を学ぶこともできる)本です。