クロアチア
ホームエレクトロニクス開発学科 准教授
山崎 洋一
国際会議といえば、研究成果を世界に発信する機会であり、また世界中の研究、人および文化を知る機会でもある。今年度は、諸学生、先生方のご協力もあり、クロアチアのザグレブ、名古屋、北京、ラスベガスでの国際会議に採択された。中でもクロアチアは初めて行く国で、会議会場の周辺に観光名所となる教会や市場などがあり、朝に散策するだけでも有意義に過ごすことができた。
海外出張の必携品といえば、現地の移動手段を把握するためのガイドブックや電源コンセントの変換コネクタはもとより、 日本らしい小物を用意しておくと、知り合って仲良くなった海外研究者や現地の人への手土産として役立つ。 そしてPCやスマホを使えないときのために、少なくとも本を一冊は持って行く。 持ち歩きやすく、長い移動にも耐えられるものということで、読むのに時間がかかる古典の文庫を持っていくことが多い。
クロアチア出張の際は、
『代表的日本人』 (内村鑑三著 鈴木範久 翻訳岩波文庫)を携帯した。『代表的日本人』は、新渡戸稲造の『武士道』、岡倉天心の『茶の本』と並び、明治時代に日本文化を世界に向けて英語で発信した書籍として名高い。キリスト者である内村鑑三が世界の文化、歴史と照らし合わせながら、日本の長所を示すにふさわしい代表的日本人として西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮の五人を紹介している。本書の目的を誤解なく示すには、序文から次の一文を引用するのがふさわしいだろう。 「わが国民の持つ長所――私どもにありがちな無批判な忠誠心や血なまぐさい愛国心とは別のもの――を外の世界に知らせる一助となることが、おそらく外国語による私の最後の書物なる本書の目的であります。」
私が本書をはじめて手にしたのは学部生の頃であり、ちょうどロボット分野を本格的に学びはじめたときであった。文明開化から四半世紀が過ぎようという時代に、日本という国を西洋に劣らぬ道徳、政治、行政、教育、そして信仰心を持った国として世界に発信しようという著者の使命感に、これから世界をリードしようという分野を学ぶ身として、そこはかとない共感を覚えた。残念ながらこの十数年で、日本はロボット、AIをはじめとする先端的な
工学分野で世界に遅れを取るようになってしまったと実感している。今、本書をあらためて読み直してみると、これまで以上に強く共感するものがあり、本学での研究成果を日本発の技術として世界に発信していく使命感をひしひしと感じずにはいられない。※1聖母被昇天大聖堂、※2ドラツ青果市場、※3聖マルコ教会は
隣接しており20分も散歩すればすべて回ることができる。
『代表的日本人』